京都生涯学習研究所

教室通信

勉強のやる気はなぜでないのか ~家庭でもできるサポートと塾の役割~

勉強に取り組もうとしても、なかなかやる気が出ないことは誰にでもあります。これは「怠けているから」ではなく、心理学や教育学で説明される自然な現象です。ここでは、やる気が出ない原因と、その解決のヒントをご紹介します。

 

◆なぜやる気が出ないのか

 

  1. 学びの意義が見えない
    人は「自分の行動と結果が結びつかない」と感じると、意欲を失ってしまいます。高校生が「なぜ学ぶのか」が理解できないと、モチベーションが下がることが報告されています[1]。
  2. 自己効力感(自分にはできる感覚)の低さ
    「どうせやっても無駄」と思うと、努力をやめてしまいがちです[2]。小さな成功体験の積み重ねがやる気を支えるカギになります。
  3. 学習内容や課題が魅力的でない
    自分の興味や将来と結びつく課題に取り組むと、モチベーションが高まることがわかっています[3]。
  4. 教師や大人からの支援不足
    安心感や信頼関係があると意欲が保たれることが報告されています[4]。
  5. 帰属意識の低さ
    「自分は学びの仲間の一員だ」と感じられないと、やる気は下がります[5]。

 

◆やる気を引き出す方法

  1. 目標を小さく分ける
    締切が近いほどやる気は出やすく、遠い目標は行動につながりにくいといわれています[6]。これは「スモールステップ」の考え方で、無理なく取り組める工夫です。
  2. 節目を利用して切り替える
    「新しい始まり」を意識するとやる気が高まりやすいことがわかっています[7]。新学期や週の始まりなどを活用することで、勉強への切り替えがスムーズになります。
  3. 自分で選ぶ感覚を持たせる
    自律性・有能感・関係性が満たされると意欲が高まります[8]。学習内容や順序を自分で決められると、「やらされる勉強」から「自分で選んだ勉強」に変わります。
  4. 小さな成功体験を重ねる
    成功体験は自己効力感を高め、やる気を持続させます[9]。一人ひとりに合わせた課題設定が大切です。
  5. 適度な緊張感を保つ
    やる気と成果の関係は逆U字型で、低すぎても高すぎても力を発揮できません[10]。範囲を絞った学習や短時間集中の工夫で、最適な緊張感をつくることができます。

 

◆それでもやる気が出ないときは

やる気が出ないのは決して珍しいことではありません。心理学的にも「自然にやる気が湧かない状態」は誰にでも起こるとされています。大切なのは、無理にやる気を出させるのではなく、環境を整えて小さな行動を積み重ねることです。

もし工夫しても改善が見られない場合は、次の点を意識してください。

  1. 休息と心身の健康を優先する
    睡眠不足やストレス、過度のプレッシャーはやる気を大きく下げます。まずは体調面を整えることが第一です。
  2. 「やる気が出ないこと」を責めない
    子ども自身も「やらなきゃ」と思っているのに動けないことがあります。責めると逆効果になり、自己効力感が下がってしまいます(Bandura, 1997)。「そういう時もあるよ」と受け止めることが安心感につながります。
  3. 環境を工夫する
    場所を変える(塾や図書館を利用する)、一緒に取り組む、タイマーを使うなど、小さな変化で行動が引き出されます。
  4. 第三者の支援を活用する
    親子だけでは難しいことも、学校や塾と協力すれば解決の糸口が見えることがあります。特に個別指導の塾では「短時間だけでも机に向かう」「1問だけでも解いてみる」といった入り口を一緒につくれるのが強みです。

 

◆塾を使う役割とメリット

こうした工夫を家庭で継続するのは簡単ではありません。そこで塾の役割が重要になります。塾では次のようなサポートが可能です。

  • 学習を小さな区切りに分け、短期目標を設定することで「行動しやすい環境」を整える。
  • テストや面談を通じて「フレッシュスタート」を意識づけ、やる気を取り戻す機会をつくる。
  • 生徒が自分に合った学習スタイルを選べるように支援し、「やらされる勉強」から「自分で選んだ勉強」へと転換する。
  • 個別課題を設定して「できた!」という成功体験を積み重ね、自己効力感を高める。
  • 講師が見守りながら、過度なプレッシャーにならない「ちょうどよい緊張感」を与える。

 

◆塾は使いようです!

勉強のやる気は「根性」だけに頼るものではなく(もちろん根性も大事ですが)、心理学や教育学でその仕組みが解明されています。ただし、その方法を家庭だけで継続するのは難しいのが現実です。

だからこそ、塾を「勉強を支える場所」としてだけでなく、

  • 続けやすい仕組みづくり
  • 節目を活かしたやる気の切り替え
  • 一人ひとりに合った課題と指導
  • 講師の伴走による安心感

を得られる場として上手に活用することが大切です。塾はお子さまのやる気を安定的に引き出すサポーターであり、ご家庭にとっても安心のパートナーとなります。

 


出典

  1. Legault, L., Green-Demers, I., & Pelletier, L. (2006). Why do high school students lack motivation in the classroom? Journal of Educational Psychology, 98(3), 567–582.
  2. Bandura, A. (1997). Self-efficacy: The exercise of control. New York: Freeman.
  3. Schunk, D. H., Pintrich, P. R., & Meece, J. L. (2023). Motivation in Education: Theory, Research, and Practice. Frontiers in Education.
  4. Stroet, L., Opdenakker, M. C., & Minnaert, A. (2013). Motivation in primary education: Effects of autonomy support and structure in the classroom. Educational Research Review, 9, 65–87.
  5. Osterman, K. F. (2000). Students’ Need for Belonging in the School Community. Review of Educational Research, 70(3), 323–367.
  6. Steel, P., & König, C. J. (2006). Integrating theories of motivation. Academy of Management Review, 31(4), 889–913.
  7. Dai, H., Milkman, K. L., & Riis, J. (2014). The fresh start effect: Temporal landmarks motivate aspirational behavior. Management Science, 60(10), 2563–2582.
  8. Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2000). The “what” and “why” of goal pursuits: Human needs and the self-determination of behavior. Psychological Inquiry, 11(4), 227–268.
  9. Bandura, A. (1997). Self-efficacy: The exercise of control. New York: Freeman.
  10. Yerkes, R. M., & Dodson, J. D. (1908). The relation of strength of stimulus to rapidity of habit-formation. Journal of Comparative Neurology and Psychology, 18(5), 459–482.

2025年9月1日

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